データを使って考える、住民に幸福をもたらすまちづくり〜日建設計総合研究所 吉本憲生さん【データ×まちづくり】
日建設計総合研究所は、建築設計や都市デザインを行う日建設計を中核とする日建グループのシンクタンクです。「持続可能な社会の構築」を理念に、建築や都市計画、まちづくりに関わる調査や研究、コンサルティングなどを行っています。都市計画・まちづくりに関する都市部門と環境・エネルギーに関する環境部門が共同し、環境負荷の少ない計画・開発や人にやさしい社会の設計を目指しているのが特徴です。スマートシティの調査研究事業の取り組みも推進し、既存のまちづくりの知見にデジタル技術を融合した提案も行っているのだとか。そこで今回は、日建設計総合研究所で主任研究員を務める吉本憲生さんに、まちづくりとデータの関係について伺いました。
吉本憲生さん(日建設計総合研究所 主任研究員)
1985年大阪府生まれ。2014年東京工業大学大学院博士課程修了。博士(工学)。2014年から4年間の横浜国立大学大学院Y-GSA産学連携研究員を経て現職。都市評価・解析、スマートシティ、交通計画・モビリティデザイン、行動デザインなどを専門とし、国土交通省「札幌市スマートシティ実証調査」(2018~2021年)、日産自動車「次世代モビリティ地域拠点「モビリティハブ」実証業務」(2019年)、横浜市「地域の総合的な移動サービスの在り方検討調査」(2021年)などに携わる。
■まちづくりにまつわるデータとその分析を知る
田邊:さっそくですが、御社での案件にはどのようなものがありますか。
吉本:主に環境・エネルギーを専門とする研究員が所属する環境部門では、建築物のコミッショニング(注1)、建物や街区のエネルギーマネジメント(注2)などがあります。他方で、都市計画・まちづくりの研究員が所属する都市部門では自治体の都市計画におけるマスタープランの策定支援などをはじめとして、国や自治体のまちづくりに関する計画策定支援や調査に関する仕事が多いです。民間企業さまからご依頼をいただく仕事ももちろんありますし、分野は幅広いですね。
田邊:吉本さんはまちづくりのほうですよね。
吉本:はい。国や自治体をクライアントとした、ウォーカブルや交通計画・モビリティデザインをテーマとした調査・研究事業に主に携わっています。ただ、会社としては分野を超えて環境部門と都市部門が連携する機会も増えています。近年では企業や自治体でのカーボンニュートラル(注3)の取り組みが話題ですが、まちづくりにもその流れがあることが背景にあります。たとえば、私は担当者ではないのですが、ある自治体の依頼のもと、エリア単位のカーボンニュートラル化を目指したまちづくりの計画を行っています。民生部門(業務・住宅)と運輸部門(交通)について地域が消費するエネルギー量を整理し、エリア内外で創出した再生可能エネルギーの活用方法として、建物のZEB(注4)化と車両のZEV(注5)化を提案しました。建物のエネルギーの評価だけではなく、交通需要に基づくエネルギーの評価も行う必要があるため、環境エネルギー計画と都市交通計画双方のノウハウが必要なんです。
田邊:私は大学の卒論が環境系だったのですごく興味深いです。今やまちづくりに環境配慮は欠かせない要素ですが、経済性を担保する仕組みづくりも難しいのでは。
吉本:そうですね。都市交通という側面ですと直に影響があります。地域交通といえば一般的に路線バスを考えられると思いますが、全国の路線の約7・8割が赤字であるといわれています。国・自治体からの補助金により運営される地域もありますが、人口減少が進む中、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う移動量の減少により事業の経営悪化に拍車がかかり、一刻も早い新しい仕組みづくりが必要となっています。たとえば、タクシーのようにその時々の要望に応じて必要な時間・場所を小型車で走るデマンド交通、運賃以外に周辺の店舗や施設に協賛金をお願いする地域活性にも絡めた収入源の拡大など、公共交通の形態や事業モデルの転換で運営効率を上げる試みについて検討が行われています。持続力が高いサービスをつくるためにも、事業単独で閉じる傾向にあった交通を地域のものとして捉え、資金を地域運営に関わるさまざまな取り組みの中で循環させようという発想に替わってきているんです。
田邊:そうした事業を進める場合、調査や分析にはどんなデータを用いるのですか。
吉本:最もオーソドックスなのは人口分布や施設分布などですね。このクラスター図は10数個の変数をもとに近い特性を持つ地域を分類したものです。昨今でいう機械学習の一種(教師なし学習)としてのクラスタリングという手法を活用し、高齢者や15歳未満(若年層)の人口に占める割合、地形における起伏の度合いを示す平均傾斜角度、各種施設(行政施設、商業施設等)の密度などを組み合わせて算出します。ちなみに若年者の多さは子育て世代の多さ、起伏の激しさは歩きづらさやベビーカーの押しにくさにも繋がります。また、公共交通の利用のしやすさを考える際には、鉄道やバスの利用が期待される範囲として鉄道駅勢圏やバス停勢圏という視点も欠かせません。鉄道駅勢圏は鉄道駅から500m圏内、バス停勢圏はバス停から300m圏内とされることが多いですが、そうした勢圏がエリアの面積に対しカバーしている割合も上記の分析における変数として活用しています。
田邊:これは静的なデータかと思いますが、動的データだとどんなものがありますか。道路でよくカチカチと数えている調査なんかもそうですか。
吉本:そうです。国でも道路交通量に関する調査が行われていますが、都市レベルだとパーソントリップ調査と呼ばれる人の行動に関する調査も実施されています。こちらは約10年に1回の頻度で、国や自治体が都市圏単位で実施していて、だいたい数十人~百人に1人の割合で質問票の回答を収集し、直近の平日と休日の行動を教えてもらいます。日頃の行動や外出の目的と行き先などを網羅的に収集するので、ある場所からある場所まで移動する人の数、目的と手段などがわかります。交通分析では古くから使われているデータとなります。
田邊:たとえば定点カメラの画像を使ってある時間帯の移動や交通を分析するような、技術を用いた情報収集はあまりされていないですか。
吉本:いえいえ、あります。人の広域的な移動に関しては、携帯電話の基地局データやGPSデータ、たとえばdocomoさんの「モバイル空間統計」など各携帯電話キャリアさんのデータなどがあります。ただ、都市計画の分析に活用する際には問題が一つありまして。分析の際には、移動の目的や手段を把握することが重要になりますが、携帯電話のデータではその判別が難しいんです。たとえば、移動手段については、移動速度から徒歩かそれ以外か、鉄道かくらいなら現状の技術でも判別が可能となっていますが、「自動車かバスか」、「どの地域にバスが多くて自動車が多いのか」等の詳細な区別までは難しい状況です。なので、移動の量だけではなく、そのような目的や手段などの質的な側面も評価できるような技術の開発を期待しているところです。
■自治体の課題とスマートシティへのデータ活用
田邊:国や自治体のお仕事ですとどのようなものがありますか。
吉本:国土交通省さんやNEDOさんの事業として実施させていただいた「スマートシティ実証調査事業」でしょうか。昨年まで札幌市さんと連携しながら「健康×スマートシティ」というテーマで検証を行っていました。行政課題の一つである健康に注目し、デジタル技術によってたくさん歩いてもらえるまちづくりができないかという実験です。この取り組みでは、札幌市さんのほか複数の民間企業さんと連携して調査を行い、あるスポットに行くとポイントが貯まる、位置情報と連動したインセンティブ付与機能をもつ「さっぽろ圏公式ポイントアプリ」のリリースにつながりました。実証実験では、オプトインにより参加者からデータ提供をいただき、移動パターンやよく歩かれている地域を分析ました。
田邊:当企画第1回で伺った住友生命さんからも、ヘルスケアと都市での健康促進のお話があったんですよ。それだけ注目されている分野なんでしょうね。プロジェクトでは民間企業との連携もされているのですか。
吉本:はい。社会的にも共創の重要性が唱えられていますし、スマートシティのようなデジタル技術が含まれる事業は弊社だけでは実施できないことがほとんどです。もちろん都市計画的な視点や、場をどう活性化すべきかなど、まちづくりにおける多様な問題が絡んでいるので、技術だけでも実現できません。私たちのようなまちづくりのシンクタンクにシステムベンダーさんやアプリ制作会社さんなど、さまざまな分野の企業の連携がないと実現が難しい取り組みなんです。
田邊:スマートシティの検討は自治体からの要望が大半ではないかと思いますが、経済面の目的はやはり税収増なのでしょうか。
吉本:スマートシティにより生活の質を高め、それによる人口増加等をテーマにしている都市ももちろんあると思います。ただ全国的に人口減少トレンドが既定路線ですし、少子高齢化目前またはすでにその状況にある自治体が大半なので、そちらへの対応を課題にしていることが多いと思います。札幌市で取り組んだような健康寿命延伸などのテーマは、少子高齢化時代の重要な問題であり、人々の生活を豊かにしていくことに加え、健康増進に伴う医療費削減効果なども期待されます。ただ、重視されるテーマは、地域活性化、まちの防災など、自治体でかなり変わってきます。都市部でも都心部か住宅地かで全然違ってきます。
田邊:なるほど。ちなみにいろいろな地域をご覧になり、調査事業を多く行われてきた専門家の視点で見た場合、スマートシティとして成功している地域ってありますか。
吉本:スマートシティが目標とするあり方とは、データプラットフォームがあり、そこに官民問わずさまざまな所が持つ幅広いデータが集約され、それらのデータを自治体なら計画策定に活用したり、民間企業・団体なら新しいソリューション開発に活かしたりすることができる。その結果、住民の利便性や幸福度が上がる。そんな環境の実現にあると思います。でもそれらを実現するために、どの都市・地域もまだまだ模索段階なのかなと捉えています。
■まちを面白くし、活性化させる交通をつくるためのデータと取り組み
田邊:吉本さんのご専門は都市評価や交通計画・モビリティデザインとのことですが、現在メインで取り組まれている案件を教えてください。
吉本:データ活用に関するものですと、横浜市政策局さんの地域公共交通に関する取り組みがあります。持続的な公共交通のあり方の構築を目標として、市域の特性評価から、新しい移動サービスのひとつとして、デマンド交通の企画と実装化を目標とした調査分析・実証実験の実施に関わっています。個人的に興味があるのは、バスやデマンド交通、自動車等の個々の移動手段の使われ方について、駅やバス停までの距離や土地の起伏、住民の世代や世帯の層、施設の有無などの都市環境の特性がどのように影響を及ぼすのかということです。
現在、多様な交通手段の連携について全国的にさまざまな取り組みが行われていますが、従来の交通事業はバスやタクシー等の個々の事業者が各自で運営を行い、それらの交通事業について、オープンに活用できるデータもそれまで豊富ではない状況でした。そのため、地域単位で、より効果的・効率的な地域公共交通を目指した再編を行う際にも、判断材料となるデータが十分になく、検討が難しいという課題に直面します。その問題を突破してくためにも、いろんな人々や企業、行政が保有するデータを付き合わせて検討していくことが重要だと考えています。実際に、まちづくりのDXに関して、データのオープン化、標準化しようとする流れが出てきています。このような取り組みを進めていくためには、個人情報の保護等の観点をクリアすることは当然のことながら、事業性が確保できるかも重要になります。たとえば、官民が連携してリソース配分できる仕組みなどができれば、そのような課題もクリアできる可能性があるかもしれません。それぞれが協力・連携して、まちの魅力を高めるための取り組みを進めることが重要かなと思います。
田邊:スマートシティの計画は、関わるステークホルダー側にも知見や情報を与え合う精神というか、お金だけでなくまちをよくしようという協力体制が重要なんでしょうね。横浜市も各地域の様子ってかなり違いますよね。地域を絞ったりはしないのですか。
吉本:確かに、横浜市は高齢者・若年層などの世代ごとの人口分布、地形の起伏や施設の立地など土地の状況もかなり違います。ただ、横浜市政策局さんの取り組みでは、上述したクラスタリングにより類似した特性をもつ地域を抽出することで横展開も視野に入れつつ、代表的な地域特性を有するエリアのひとつにおいて、ケーススタディや実証実験に関する検討を行っています。
田邊:この実験で設定されている目標はどんなものですか。
吉本:二つあって、一つ目は移動の活発化です。指標としては、どれぐらいの人が移動し、外出してくれるか、というものになります。外出することは健康増進や交流機会の増進にもつながり、人々の生活の質を高めることにつながるため、まず外出の際の選択肢を増やすためにも地域の人々にとって使いやすい交通手段を提供したいなと思いがあります。二つ目は事業性の観点で、持続できるサービスの構築が該当します。これは外出と表裏一体の目標で、外出により交通手段をどの程度使ってもらえるか、あるいは地域の店舗・施設等にどの程度訪問されるか等が指標になります。移動によって、地域の施設等にも活気が生まれる。あるいは逆に、施設等と連携することで移動が創出される、そのような仕組みについて検討できればと思っています。
田邊:以前、ご自身の記事で通勤・通学や買い物のような目的に付随し、その手段として鉄道やバスなどを使う「派生需要」と移動そのものが目的となる「本源需要」について書かれていましたが、このお話は派生需要ですよね。本源需要も同じデータから取れますか。
吉本:本源需要とは「移動することそのものが楽しい」ようなあり方を指しますが、そうしたデータを取得していくことはまだまだま容易ではないと思います。
ちなみに、弊社関連のプロジェクトではないのですが、池袋のIKEBUSは本源需要という観点で、非常に面白い取り組みだと思います。池袋駅、豊島区役所、公園や文化施設等をつなぐ環状路線で、バスの車両自体もかわいく、車内には音楽が鳴っていて、子連れの方がとても多く乗車されています。最近できたイケ・サンパークの園内に路線が通っていて風景や乗ること自体を楽しめます。個人的にはこのような取り組みには可能性を感じます。
田邊:どんなデータからIKEBUSが生まれたのか気になりますね。今お話いただいた場所と場所を繋ぐ大切さや、先ほどの派生需要と本源需要のお話は吉本さんが提唱されている「まちえき」の概念にも関連するのではないかなと。そちらも少しご説明をお願いできますか。
吉本:はい。「まちえき」はモビリティハブと呼ばれる地域の小さな交通結節点を核として、まち全体が駅のような場所になるような概念ですね。モビリティハブとは、数年前から主に海外で注目されてきた拠点のあり方で、バス停などのような従来的な公共交通の拠点に加えて、シェアサイクルやカーシェアリングなどの小さな交通の乗降スポットを含めた多様な交通手段を結節させる拠点像になります。まちえきの議論では、そのような拠点のイメージを拡張し、単なる交通結節点ではなく、拠点自体に行きたくなるような魅力があったり、拠点からエリア内の多様なスポットへの移動が促進されるような情報が提供されていたり、場所の魅力と移動手段の利便性が密接に連携した拠点像・地域像を提示しています。地域の魅力を発掘・共有することと、それらの場所へのアクセシビリティを担保することで、人の行動頻度や目的地も変わるのではないかと考えました。
この概念を考え始めたのは、2019年に日産自動車さんの「自動運転やMaaSに沿った新しい都市の姿を一緒に考えてほしい」というご依頼の一環で行った、モビリティハブの実証実験がきっかけでした。横浜市中区の黄金町を小型モビリティで一日自由に移動できるという実験内容で、ハブに戻ったら自分の訪れた地域を写真で撮って掲示版に共有する仕組みをつくりました。すると、実験期間中の最初期のグループの人が道端の叩き売りの風景や店先に並ぶ果物など活気ある商店街の写真を貼っていて。面白いなーと思っていたら、以降のグループでは、黄金町からは普通では行かないその商店街を訪れる人が増え、最後には上位の人気スポットになっていました。普通は黄金町から向かう先としてはみなとみらいや赤レンガ倉庫などの都心部が選ばれがちですが、ハブにある口コミが人の行動や目的地を明確に変えたわけです。口コミでコアな情報共有をすることが、普段とは違った行動の選択につながる可能性があると確信しました。この仕組みを、MaaSアプリなども繋げたりすれば、魅力さえあれば小さな場所にも人を集められるのではないかと考えています。
田邊:なるほど。そういう試みにはSNSのデータなども活用されたり?
吉本:今お話した実験では活用していませんが、研究の一環で、SNSデータを活用した取り組みを行っています。2019年からTwitterデータをもとにした感性研究として、都市の感情や感性の可視化する取り組みを進めています。社内のメンバーに加えて東京都立大学の山村崇准教授との共同により実施しており、「楽しい」や「悲しい」など都市の感情に繋がる単語をリストアップして、それらの単語をベースに言葉に得点を与える手法を考案し、それらの得点に関する空間的な分布を評価する方法について研究しています。上述したような移動の量的データの収集手段の多さに比べると都市の「感性」のような質的なデータは取得しにくいので、そこをどう分析していくかが今後の都市分析の鍵になると考え取り組みを行っています。
■デジタルやデータだけに囚われない「意義ある非効率」
田邊:スマートシティ×データ活用には各自治体の目的がまずあるとしても、その上でスマートシティやビジネスを成功に導くために大事なことってなんだと思います?
吉本:最近読んだ『スマート・イナフ・シティ』(人文書院)にとても示唆的な内容が述べられています。それは、「意義ある非効率」というキーワードです。スマートシティの成功には技術が重要という話になりがちですが、この著書では、そのような技術中心主義的な視点に対して異が唱えられています。具体的には、技術の必要性や活用方策、課題感や目的などについてステークホルダー間でいかに共感・共有し、取り組みを進めていくことができるか。そのためには、人を巻き込むことや体制づくりでの地道な行動・交渉が重要です。それが「意義ある非効率」という言葉で表現されています。スマートシティの目的としてよく効率化という言葉が挙げられますが、まちづくりにおいては効率化してはいけない部分があるのだと思います。そういう部分にまちの重要なものがあり、魅力があると言えるのではないでしょうか。
田邊:まちの面白さは余白や無駄にあるとも言いますしね。それと同じで、たくさんのステークホルダーが入る取り組みだからこそ、意義ある非効率を意識することが大事だと。なるほど。では、吉本さんが考えられる「いいまち」はどんな場所だと思われますか。
吉本:いろんな場所に行ける・行きたくなるような、移動や行動の選択肢が豊富にある場ですね。いろんな場所に行くことで発見があり、人に会えるような機会がまちの中に増えると嬉しいなと思っています。大都市部や地方都市、都心部や郊外を問わず、行きたくなるスポットが豊富にあって、いろいろな手段・ルートで行けて、移動も楽しめるようなまちを想い描いています。まちえきの概念にもつながりますが、自分たちが住む地域圏を充実させられるようなまちのあり方を考えていきたいです。
田邊:ありがとうございます。最後の質問です。ご自身にとっての「データ」とはどんな存在ですか。
吉本:データ分析をしたりデータをみたりするのは好きですし、計画・検討を行う際にも非常に重要なものですが、他方で、データだけでできることもないのかなと思っています。そういう意味では、アイデアや行動と連動して活用するからこそ意味があるのかもしれない。一言で表現するのであれば、「アイデアと両輪にあるもの」になるかなと思います。
普段何気なく暮らす私たちのまち、そして何気なく使っている公共交通。健やかに暮らせるまちを未来につなぎ、よりよい環境をつくるための取り組みが、実はさまざまな場所で行われていることが、お話から見えてきました。吉本さんが提唱されている地域を充実させる「まちえき」のアイデアにも、人が持つ感覚や感性に沿う形でデータが役立ってくるのでしょう。みなさんも交通量調査を見かけた時は、あの調査データがどこかで活かされていること、そしてこの記事のことを思い出してみてくださいね。
(註釈)
注1 公共建築やビルなど、施設の設備内容と電力消費量などから環境への性能や負荷を評価、また建築計画などを行う調査
注2 効率的なエネルギー活用、省エネルギーや循環活用のための計画や評価をする調査
注3 2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする
注4 ゼブ/Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル) の略称。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることをめざした建物
注5 ゼブ/Zero Emission Vehicleの略称。排出ガスを一切出さない電気自動車や燃料電池車
文 木村早苗
写真 橋本美花